修行時代

妻と2人、持ち物と言えば大工道具と伯父から貰った軽トラックが1台。29歳で独立した時の私の姿です。18歳で「この人なら」と目星をつけた親方に頼み込んで弟子入りさせてもらい、11年目にして独立を許されました。

オヤジ・・・師匠である親方のことを私はそう呼んでいるのですが、オヤジは弟子をとらないことで有名な人でした。そんな人がなぜ私を弟子にしてくれたのかは謎ですが、どうやら私が「将来、親方になるために修業させてくれ」と言ったのが、気に入られたのではないかと思います。オヤジの口癖は、「男の値打ちは、金を残すよりも、名を残すよりも、人を残すことや」でしたから。

 

言葉通り、オヤジは最初から私をただの職人ではなく、親方にするための教育をしてくれました。大工修業はもちろんですが、同業者とのつきあい方から宴席での振る舞いまで、男としての作法を一から十まで教えてくれました。酒席では、若輩者の私は他の親方衆が注いでくれる酒を受けないわけにはいかず、毎回ぐでんぐでんに酔っぱらってしまいます。それでも翌日には早起きして親方を迎えに行き、現場に向かわなくてはなりません。きつかったですが、「将来親方になる」というはっきりとした目標があったので平気でした。学生時代から、手に職をつけて自分の足で歩んでいきたいと親にも言い続けていましたし、わざわざ弟子をとらない親方を選んで弟子入りするような偏屈者ですから(笑)、根性だけは人並み以上だったと思います。

 

 

 

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